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シェイクスピア&英国演劇 情報紹介サイト Shakespeare and British Theatre Information Site


英国におけるシェイクスピア Shakespeare in Britain

-「英国」の象徴
-シェイクスピアの影響・功績について

英国の「象徴」__________________________________________

日本では、「シェイクスピア」というと、「高尚で小難しいもの」と捉えられがちです。

英国でも、同様に「教養の高い富裕層の娯楽」と認識されることは少なくありません。
ですが、そこは本国。やはり他国である日本とは、社会での認識のされ方が、まったく異なります。日本では、
おそらく「名前を聞いた事がある」や「西洋の有名な劇作家」といった認識が一般的かと思いますが、
英国においては、シェイクスピアはあくまでも「シェイクスピア」。何の説明も必要ではありません。

現在、シェイクスピア作品を読むことは、公立学校カリキュラムで必須となっていますし、しかも、大抵、
その年のカリキュラムで課題に選ばれた作品は、連動してどこかの劇場で演じられています。
シェイクスピア作品は、地域の劇場でも多く上演されており、ドラマ化されテレビで放送されたりもしますから、
好き嫌いはさておき、「シェイクスピア」の名と、その名が意味するもの(=英語圏で最高の劇作家)を知らない
英国人は、まずいないと言って良いのではないでしょうか。

英国国営放送(BBC)の子供向け歴史コメディ番組*の題材に、当たり前のように登場したり、新聞で毎日のように
台詞が引用されたりと、好むと好まざるとに係わらず、シェイクスピアは英国人の生活の中に根付いた存在となって
います。 * 'Horrible Histories' CBBC (BBC)

その上で、その存在をどう思っているのか?について、面白い調査結果があります。

2011年に行われた「〜を英国の象徴(シンボル)として誇らしく思うか」という世論調査において、「〜」部分
に「シェイクスピア」を当てはめた場合、実に75パーセントが「そう思う」と答え、第一位に輝いています。
英国国旗や英王室を抑えての一位ですから、いかにシェイクスピアという存在が、英国人の中で「誇るべき」象徴と
なっているかが分かります。

また、BBCが、英国の一般大衆を対象に投票を実施し結果をまとめた、2002年の「100Greatest Britons (最も
偉大なる英国人100名選)」という番組においても、シェイクスピアは第五位に選ばれ、英国民の心の中に一定の
地位を得ていることが伺い知れます。

近年、世界的に価値観が多様化・激変し、英国でも伝統的な価値観が変わってきていますが、2014年に生誕450年祭、
2016年に死後400年祭が大々的に祝われていたことを見ても、シェイクスピアに関しては、人々の意識に大きな
変化は無いものと考えて良さそうです。

確かに、シェイクスピア芝居を見に行くことは、「教養ある富裕層の娯楽」として捉えられたり、
積極的にシェイクスピアを好むのは知識階級やアマチュア舞台人、と認識されることはあるものの、
英国の人々が、客観的・対外的には、シェイクスピアを「英国の象徴」として認識していることは間違いありません。

「英国人が誇りに思うシンボル」の世論調査(2011年)

世論調査会社のDEMOSが行った調査によると、「私は〜をブリテンのシンボルとして誇りに思う」という文言に
賛同した人の確率は以下のようになっている:

1位 シェイクスピア 75%
2位 ナショナル・トラスト* 72%
2位 英国軍 72%
4位 ユニオン・ジャック(英国国旗) 71%
5位 ポンド通貨 70%
6位 NHS(ナショナル・ヘルスケア・システム) 69%
7位 英王室 68%
8位 BBC(英国国営放送) 63%
9位 スポーツ選手の活躍 58%
10位 ビートルズ 51%
10位 法体系 51%
11位 国会 47%

*ナショナル・トラスト 英国の自然環境・歴史建造物などを保持する為の民間組織

「100Greatest Britons (最も偉大なる英国人100名選)」投票結果(BBC,2002年)

英国国営放送(BBC)が、英国の一般大衆を対象に投票を実施し、番組において、以下のような結果が発表されて
いる。上位10名を記載:

1位 ウィンストン・チャーチル(政治家)
2位 イザムバード・キングダム・ブルネル(エンジニア・英国鉄道の祖)
3位 ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ(英皇太子妃)
4位 チャールズ・ダーウィン(自然科学者)
5位 ウィリアム・シェイクスピア(劇作家)
6位 アイザック・ニュートン(物理学者)
7位 エリザベス一世(英国君主)
8位 ジョン・レノン(音楽家)
9位 ホレイシオ・ネルソン(英国海軍提督)
10位 オリバー・クロムウェル(護国卿)

【一言】「英国の象徴」調査では、二位に自然環境・歴史的遺物保持組織であるナショナル・トラストが入り、「偉大なる英国人」投票では、シェイクスピアを含め上位10人中5人が、学術・芸術畑の人々であるのが印象的です。英国人が、経済や政治的なものの重要性を認識していることは確かですが、その他、自国の何に価値を見出しているのかを窺い知ることができる結果ではないでしょうか。仮に現在の日本で、同様の世論調査や投票を実施したら、どのようなものが上位に選ばれるのか、興味深いところです。


シェイクスピアの影響・功績について________________________________
近代英語の基礎

シェイクスピアは、英国の過去の文化人の中で別格と言えるほどの高い地位を保っています。
著作が世界的な名声を得ているということが理由の一旦だとしても、そもそも400年以上も前の一劇作家が、
ここまでの評価を受けている理由は、日本人には中々分かりにくいのではないでしょうか。

後の西洋演劇や西洋文学に影響を与えたという功績は日本でもよく語られることですが、英国(英語圏)において、
シェイクスピアが重要視されている大きな理由の一つは、そもそも「現代英語の基礎」となったのが
「シェイクスピアの英語」である、というところにあります。

英語という言語は、複雑な歴史の上に成り立っており、土地の征服者が変わる度、その征服者たちが話す言語の
影響を受けつつ発展してきました。地域ごとの方言も多く、かつ、キリスト教の布教およびノルマンの征服以降、
教会や学校、法廷の公用語はラテン語、宮廷文書にはフランス語が用いられていたそうで、現地語である「英語」は、
正式のものとして扱われてはいませんでした。英語が宮廷の公用語となったのは14世紀の末、公文書が
英語で書かれるようになったのは15世紀。この時期に「英語」を文学的に用いる言語として発展させたのが
チョーサーChoucerです。ただし、チョーサーの英語は、現在の英語とは綴りも語彙も、まだ随分異なるものでした。
ですから、現在、一般の英語話者がチョーサー作品を読むのには、「現代語訳」が必要です。

英語という言語が劇的に発展し、文学が花開くのは、チューダー王朝下、イングリッシュ・ルネサンスと呼ばれる、
特にエリザベス一世の時代。この時代、比較的安定して平和を保ったイングランドは国力を増し、文化・芸術が急激に
発展します。多くの学術書が書かれ、芝居人気に後押しされて大量の芝居作品も書かれました。
この時期に、様々な事象を表現する言葉の不足を補うべく、古代ギリシャ語やラテン語から多くの単語が導入され、
語彙も劇的に増えたようです。

シェイクスピアは、この、文化的・知的豊かさの恩恵を受けた時代に活躍した劇作家の一人です。天才と言われますが
こと言語に関して長けていたのは、場面を鮮やかに表現することでした。同じ場面を描いていても、聞き手にとって、
より印象的で華やかな表現になっているのがシェイクスピアの綴った言葉です。

英語に足りない語彙を補うべく、あらゆるところから様々な言葉を自由に引っ張ってきて、自在に使いこなしたようで
シェイクスピアが作品の中で使用したことで、広く世に知れ渡るようになった単語が実に3000語以上あり、
その内、1700語はシェイクスピア自身が作ったと認識されています。また、現在、普通に使われている英語独特の
言い回し(表現)にも、シェイクスピアが始めて使った(又は、世に広めた)ものが数多くあります。

ただし、この時期ですら、英語はまだ流動的な言語で、言葉の意味・用法や、文法、綴りに定まった「法則」が
ありませんでした。1700年代に印刷技術が向上し、比較的安価な本が広く一般に流通するようになると、基本となる
「英語の使用法」の制定が求められるようになり、1755年に、サミュエル・ジョンソンSamuel Johnsonの手による
「英語辞典 A Dictionary of the English Language」が出版されます。

実は、この辞書を編纂する際に、最も頻繁に参照されたものの一つが、当時巷で根強い人気を誇っていた
「シェイクスピア作品」でした*。綴り、文法、語の用法などが、多くシェイクスピアの英語を参考として定められ、
引用も多数用いられました。そしてこの辞書は、現代辞書の模範となり、その後173年もの間、最も影響力のある
辞書となって現代英語の基礎を形作っていくこととなります。

これこそが、英語圏においてシェイクスピアが他の作家たちを凌駕する存在となった、大きな理由の一つです。

*シェイクスピアと並び辞書の核となったのは「ジェームス王の聖書King James's Bible」

言ってみれば、現代の英語はシェイクスピアの書いた英語が基となっているわけですから、多少の語彙の変化や
文法の違いはあるものの、現代の英語話者が、シェイクスピアの英語を理解するのは難しいことではなく、
シェイクスピアの有名なセリフは、今でも日常会話の中で気軽に引用することができるのです。

また、この辞書で学んだ後世の作家たち、ことヴィクトリア時代の作家たちの「名作」の中にも、シェイクスピアが
多く引用されていますから、「英文学」の中に常にシェイクスピアの影を感じることができるのも、決して
不思議なことではありません。

日本で、シェイクスピアが一般に「文豪」と認識されるのは、こういったところに所以があるのでしょう。

ただし、だからといって、シェイクスピア自身を「文豪」と解釈してしまうと、シェイクスピアの真の功績を見失う
ことになりかねません。英国でも、作品を「読むこと」が学校のカリキュラムの必須項目になっており、読むべき
「文学」として捉えられ、結果、子供たちに激しく嫌悪されてしまうことが少なくないようです。

面白いのは、英国(もしくは英語圏)でシェイクスピア好きを自称する人々が、皆「シェイクスピアは読む為のもの
ではない」と口を揃えて言っていることで、実際、学生時代にシェイクスピアが嫌でたまらなかった人々が、劇場で
名優の芝居を観たり、自分自身が演じる機会があったりする中で、いつの間にかシェイクスピア好きになっていた、
という話はよく聞かれます。

ロシアの文豪トルストイが、シェイクスピア作品の、悲劇としての文学的完成度の低さについて批判をしていますが、
嫌悪の理由の一端も、もしかするとこの辺りにあるかもしれません。

死後の扱われ方がどうであれ、シェイクスピア自身は、あくまで「劇作家」であり、作品はあくまで舞台上で役者に
「語られる」ことを前提として書かれたのであって、文字として読まれるものとして書かれたわけではないですから、
それを文学作品として「読んで」しまうところに違和感が生じるのではないでしょうか。

そもそも、シェイクスピアが、死後100年以上経った、ジョンソンの英語辞典の編纂の時まで、英国の人々の間で
人気があり続けた理由、そもそも、シェイクスピア作品が、ずっと舞台人に好まれ、演じ続けられてきた理由、
その舞台が、身分の上下を問わず400年もの間、観客をひきつけ続ける理由、それこそが単純にシェイクスピアの
功績なのでしょう。それは、恐らくシェイクスピア自身が書いた言葉で演じ・観てこそ真に理解できるもの、と
言えるかもしれません。

登場人物の心理や、台詞の意味、劇中の人間関係の巧みさなど、翻訳が可能な「台本の内容」はもちろんのこと、
シェイクスピアが英国の人々の心を掴み続ける理由は、鮮やかで豊かな「話し言葉」としての英語を書いてくれた
ところにあるはずです。だからこそ、シェイクスピア作品は演じられてこそのもの、という評価になるのでしょう。

実は、「英語」から「他言語」に翻訳された瞬間に失われてしまうものにこそ、本当は、英国におけるシェイクスピアの功績があるのではないでしょうか。

シェイクスピアが「作った」単語・例

シェイクスピアが作った(始めて使った)とされる単語のうち、日本でも聞いた事のありそうな語を抜粋:

Academe 学術的な環境(恋の骨折り損)
Accommodation (快適な)設備・施設(尺には尺を)
Amazement 驚き(ジョン王より)
Assassination 暗殺(マクベスより)
Birthplace 生誕地(コリオレーヌスより)
Belongings 持ち物(尺には尺を)
Cold-blooded 冷血な(ジョン王より)
Dawn 夜明け(ヘンリー5世より)
Eyeball 目玉(あらしより)
Fair-play 騎士道的な、誇りある行動(ジョン王)
Fashinable 流行の(トロイラスとクレセダ)
To hurry 急ぐ(間違いの喜劇より)
Manager マネジャー・管理者(真夏の世の夢)
To negotiate 交渉する(空騒ぎ)
To torture 拷問する(ヘンリー6世 第2部)
Worthless 価値のない(ヘンリー6世 第3部)

⇒参考 Words Shakespeare Invented へ

シェイクスピアの「言い回し」

英語を学ぶ人々が苦労すると言われる'Phrases'。シェイクスピアが使ったことで一般化したものや、そもそも
シェイクスピアが始めて語を組み合わせた表現は少なくない:

All corners of the world 世界のどこでも(シンベリン)
All of a sudden 突然に(じゃじゃ馬馴らし)
All one to me なんでも良い・どちらでも良い(トロイラスとクレセダ)
As cold as any stone ひどく冷たい(ヘンリー5世)
As dead as a doornail 完全に死んだ(ヘンリー6世 第2部)
It's greek to me 理解できない(ジュリアス・シーザー)
Green eyed monster 嫉妬(オセロ)
My salad days 若く無知な日々(アントニーとクレオパトラ)
The game is up 全て終わり、又は、全てお見通し(シンベリン)
The Queen's English 英国の言葉(ウィンザーの陽気な女房たち)
Make an ass of youeself 馬鹿げたことをする(真夏の世の夢)
Off with his head (冗談で)首を切ってしまえ!(ヘンリー6世 第3部)
For goodness sake (ヘンリー8世)
A wild goose chase 無駄な労力(ロミオとジュリエット)
Woe is me 悲しい、苦しい、辛い(ハムレット)
A heart of gold(ヘンリー5世)
As good luck would have it 幸運なチャンスで(ウィンザーの陽気な女房たち)
A rose by any other name would smell as sweet 重要なのは名ではなくて実(ロミオとジュリエット)
Et tu, Brute ブルータス、お前もか(ジュリアス・シーザー)

英語圏でよく引用されるシェイクスピアの有名なセリフ

「生きるべきか死ぬべきか」は、日本語でもよく聞くが、英語圏の人々は、シェイクスピアからの引用をごく自然に
会話の中に組み込んでいる。下記は、これを叩き台にしたパロディが新聞の見出しなどに使われて、日常で目にする
機会も多い、特に有名なもの:

Frailty, thy name is woman (ハムレット)
The quality of mercy is not strained (ヴェニスの商人)
Such stuff as dreams are made of (あらし)
All's well that ends well (終わり良ければ全て良し)
Now is the winter of our disdontent (リチャード3世)
If music be the food of love, play on(十二夜)
To be, or not to be, that is the question (ハムレット)
All the world's a stage, and all the men and women merely players(お気に召すまま)
Some are born great, some achieve greatness, and some have greatness thrust upon 'em(十二夜)
We few, we happy few, we bad of brothers(ヘンリー5世)
A horse, a horse, my kingdom for a horse(リチャード3世)


シェイクスピア

ウィリアム・シェイクスピア
英国におけるシェイクスピア
作品(戯曲)
作品(詩)
歴史と背景(英国史概要とシェイクスピアの時代)
歴史と背景(シェイクスピアの劇団と劇場)(準備中)
名作紹介(映像化された作品)